山口家庭裁判所下関支部 平成8年(家)124号・平8年(家)125号
主文
申立人の申立てをいずれも却下する。
理由
一 申立ての趣旨
事件本人を禁治産者とする。申立人を事件本人の後見人とする。
二 本件資料及び家庭裁判所調査官○○○作成の調査報告書によれば、以下の事実が認められる。
1 申立人は事件本人の長男であり、事件本人と夫宗田良孝(昭和60年10月18日死亡)との間には、申立人の外、長女深山京子、二女逸見桂子(以下「桂子」という。)、三女宗田美枝(以下「美枝」という。)がいる。
2 事件本人の治療関係は以下のとおりである。
(1) 昭和62年1月ころ脳動脈硬化症、老人性せん妄状態との診断で下関市立甲病院に入院し、検査、治療を受けた後同年2月12日これから退院した。
(2) 昭和62年3月25日から同年12月27日まで医療法人○○園に入院し、治療、看護を受けたが、右退院後は桂子のところへ身を寄せて生活した。
(3) しかし、事件本人が寝たきりの状態となったため、昭和63年2月9日から平成4年9月26日まで医療法人乙病院に入院した。
(4) その後、平成4年9月26日下関市○△所在の丙診療所に移った。同所では付添人が付いていたが、これが辞任したため、平成7年8月完全看護が受けられる乙病院に再び入院したが、同病院から同年10月6日付けで水痘症術後の病状のため動くことができないと診断され、さらに平成8年2月ころ肺癌に罹患していることが発見されてその旨親族に告げられた。
(5) 平成9年2月ころ事件本人は同病院の医師の指示により丁病院に転院した。
(6) 事件本人は平成8年にはすでに、食事も鼻から流動食を摂る状態であり言葉を話すことができず、申立人、桂子ら姉妹とも意志能力を喪失した状況にあると認めている。
しかしながら、申立人を除く姉妹は、事件本人の病状がすでに重いことと、財産管理も桂子が処理している現状で、本人の保護に差し支えないことから、事件本人を禁治産者とすることには反対している。
3 桂子は、事件本人が○○園を退院し、乙病院に入院するまでの間事件本人と同居していたが、その間に事件本人から同人の実印、印鑑登録カード、預金通帳、証券類を預かり、これにともなって事件本人の受け取る地代、家賃、駐車料料金、年金等の収入及び支出の管理を行うようになった。
4 申立人は平成元年10月31日付け内容証明郵便で右保管は事件本人の意志に基づかないものであるから、子ら全員で管理すべきであるとして、桂子に話し合いを求めた。これに対して桂子及び美枝は平成元年11月8日、事件本人に同人がその意志により実印を桂子に預ける旨の書面を作成させ、翌日これが事件本人の意思に基づくものであることを確認し、美枝は桂子が事件本人の実印を保管することに同意するとの確認書、同意書を作成し、同日付けの確定日付を受けた。
三 当裁判所の判断
1 上記二2(6)の事実によれば、事件本人はもはや意志能力を喪失しているものと認められる。そうだとすると禁治産宣告をなすことが相当である事案であるように思える。
2 しかし、無能力者制度は、本人の保護を目的とするものであるから、意志能力を喪失したからといって、すべての場合にこれを禁治産者とするべきものではなく、これをなさなくても本人の財産の保護に差し支えがなく、必要な療養や看護を受けるのに欠けることがないような場合には、かならずしも禁治産宣告をするまでの必要はないものと解される。
3 本件においては、前記のとおり昭和62年ころ以降、事件本人の財産、支出及び収入の管理等、病院への入退院の手続き、支払い等及び身の回りの世話などは桂子においてなしており、その間事件本人の財産が喪失したり、金銭が同女によって浪費されたような事実ないしは適切な治療及び看護が受けられなかったことを認めさせるような事情はない。
4 申立人は、桂子が昭和62年ころから事件本人に意志能力が欠けていることに乗じて預金通帳等を管理し、事件本人の収入等を取得し、ほしいままにしている旨主張しているが、これを認めるに足る資料はない。また申立人は、本件申立ての趣旨は桂子が事件本人の財産管理をきちんとするように求めることにあると述べており、そうだとするとこれは同女を相手とする親族関係調整等の事件として処理されるのが相当である。
5 以上によれば、事件本人の保護のためこれを禁治産者とするまでの必要性はないというべきであるから、申立人の本件申立てはいずれも理由がないものとして却下することとし、主文のとおり審判する。